社員通信

円安倒産

2024年GW明け最初の投稿です。

皆様はこのGWを如何お過ごしになりましたか?
ご無事に日常を再開出来ていれば何よりです。

私の場合は特段のイベントもなく、
(あ、父親の誕生日がありました…)
基本的には通常と同じでしたが、

皆さまもご存知の通り、
この期間に政府の為替介入が継続的に入ったため、
その意味では非常に疲れたGWでした。

※ANNニュースチャンネルよりキャプチャー(https://www.youtube.com/watch?v=FH1ccbLxg74)

今回の介入で意外だったのは5月2日から3日にかけてのもので、
特に2日早朝(取引日基準では1日ニューヨーク市場の引け近く)
の行動は裏をかかれました。

2日の寄値を下げたかった意図を感じましたが、
普段であれば売買注文が閑散なこの時間帯、
介入額を抑えながら値幅を出すには確かに有効なアプローチではありました。

ただ、もし今回の介入の主旨の一つに、輸入事業者に対する救済目的があったとするなら、
GW中に対応できる事業者はかなり限定的だったと思われ、
「恵みの雨」になったかどうは、いささか疑問です。

何れにしても、政府日銀の市場関係者並びに、委託を受けた銀行のご担当者は連休返上で対応していたのは事実でしょうからここは一言、
「大変、お疲れさまでした」と申し上げたいと思います。

 
さて本題に戻りますと、

円安倒産の話がクローズアップされ始めたのはGW後半あたりからでしたが、
ネットニュースによれば某調査機関から発表された4月の企業動向の中で、「円安関連倒産が22か月連続」だったと報じられました。

その件数はわずか1件と意外に少なかった一方で、その後同機関が発表した全国企業倒産件数は4月だけで783件、
2024年度は1万件を超えるペースだということでした。

円安関連倒産の定義までは調べ切れていませんが、
後者の結果に対する要因として、仕入れコストや光熱費、人件費の高騰が挙げられており、
実はそのほとんどが円安要因とも言える事から、円安関連倒産との違いが不明です。

そんな中で対照的だったのはトヨタの決算発表で、
営業利益が日本の上場企業では初となる5兆円を超えたとの報道もありました。

好決算に至った要因として、投資に興味がある皆様なら既にお分りだと思いますが、
その一つはやはり円安効果があったということでしたね。

輸出企業にとって、円安はまさに追い風であることが再確認できたわけですが、
日本の多くの企業は何かの形で輸出に関わっているとすれば、先の全国企業倒産件数が急増していることと矛盾している事にもなります。

 
ところで、

1985年のプラザ合意に端を発した超円高時代の到来は、円高倒産を多数招きました。
時はいわゆるバブルの真っ最中でしたが、円高倒産の多くは中小の輸出関連企業が中心だったと記憶しています。

正に円高は輸出企業にとってはデメリットだった訳ですが
そのカラクリは、採算がとれる価格だと海外では割高になってしまうため買ってもらえず、
取引を継続するためには値下げしてでも売らないといけない、という事情がありました。

10,000円で売りたい品物が、1$=200円なら50$で売ればよかったところ、円高で1$=100円になると100$にもなってしまうため、50$で売るためには元の値段を5,000円にする必要があった、ということです。

一方で景気が良かった当時の内需は逆に、海外の高級品が割安で購入できたため、日本の製品に対しては興味が薄れていく時代でもあったことは不幸でした。

円安でも円高でも結局、中小企業が煽りを受ける結果になっているのは悲しいことですが、一つだけ決定的な違いが存在します。それを国内の自動車部品メーカーを例に考えてみたいと思います。

 
自動車部品メーカーは、輸出業者でもある自動車メーカーに必ず販路があり、ある意味で安定的なビジネスモデルだと思うのですが、円高時代は販路先の自動車メーカーが生産数を減らしたり値下げせざるを得ないため、部品メーカーも対応するしかなかった不可抗力でもありました。

円高の影響で材料費は値下がりしていた可能性もあり、僅かな値下げ余地があったのかもしれませんが、発注そのものが停止されたケースだと薄利すら絶たれることになり、倒産に直結していたことになります。

ところが円安の今、自動車メーカーは円安効果を享受できるばかりか、ダンピング回避のため海外の販売価格を値上げしたとしても、割安感が残る範囲であれば恐らく売り上げは好調でしょう。

しかし、部品メーカーにとっては材料費は円安で高騰する一方で、納品先への販売価格が上がらなければ赤字になるに決まっています。自動車は売れるので部品の発注は増えるものの、納品すればするほど赤字が膨らむ構図になっている訳です。

このように、自動車メーカーという輸出企業に紐づく同じ部品メーカーが、円高でも円安でも煽りを受けるのは不思議な話ですね。

実は部品メーカーは、原材料を輸入(もしくは輸入された資材を購入)して加工したうえで国内の顧客である自動車メーカーに販売しているので輸入企業だと言えますから、
円安リスクを負っていることになりそのリスクは、自動車メーカーが輸出で得た円安メリットにそのまま乗っているとも言えます。

もし自動車メーカーが、部品に使う原材料を自ら仕入れて、加工技術費用だけを部品メーカーに支払うとすれば、材料費の高騰はその分、自動車メーカーのコストにそのまま乗ってくることを考えればお分りいただけると思います。

円高では販路が狭まって本来のメリットが閉ざされ、円安ではリスクを価格に転嫁できず販路先の利益に上乗せされるようでは生き残れるわけがなく、

前者は共同体として致し方ないとしても、後者は発注元経営者の人道的な問題だと思い、ここが仕方がないだけでは済まない決定的な違いだと考えています。

この点で先のトヨタは、下請け支援等に2兆円をねん出するとも発表しており称賛に値します。円安メリットを享受できているということは半面で、円安でデメリットを被っている誰かが必ずいることを忘れずに、少なくとも関連企業の隅々まで配慮できる経営者がもっと増えることを期待します。

 
お仕舞いに、

倒産件数の業態の中で飲食店の数が急激に増えているようです。

食材や飲料の多くを輸入品に頼り国内の顧客に提供している飲食店はまさに、先の部品メーカーと同じ状況です。
もし販路を海外に求められれば、円安効果で多少は経営状態も改善するはずですが…ハードルが高いのも事実です。

ただ1つだけ言える事は、海外に販路を求めなくても向こうから海外の”販路先”が日本に来てくれているのは一種の円安効果ですから、
いわゆるインバウンド需要に絡めるか否かもカギになりそうです。

客足は減っていないものの、コスト高が利益を圧迫している場合は、それこそ値上げしか方法はないのかも知れませんが、

小売り業界ではクオリティを下げて値上げをしのいでいる企業もある中で、
飲食店だけは量や質を下げて凌ぐほど残念感が強いので(個人的な感想です)、それだけはして欲しくないと願うばかりです。

 
ふと我に返ると、他人の事を言っている場合ではないところですが、どうか皆様と一緒にこの円安時代を生き抜いていきたいと思います、頑張りましょう!

 
 
浅野敏郎

P.S.
改めて企業動向を見る機会を得て、これでは日銀も利上げはなかなか難しいと思いました。実質所得の目減りが続く限り、一般人の財布の紐は固くなっていくしかありません。昨今のように殺人や詐欺が横行するのは不況の印とも言われ円安不況も近い印象ですが、物価だけは安かった円高不況の方がまだマシだったように思い始めている自分がいます。

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