当初は、丁度この原稿が公開される頃に台風10号が関東付近に接近するとの予報でしたが、
想定より西寄りに進路を取っていることや、移動速度が異常に遅いことから今週末以降に関東へ接近するという予報に変わりつつあります。
※ウェザーニュースのYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/@weathernews)よりライブ放送をキャプチャー
想定通りに進めば日本列島を縦断する可能性が高い模様で、全国的に高いリスクがありそうです。
既に断片的な豪雨が各地を襲っているようですが、唯一の希望としてはこの台風を境に、灼熱列島が少しでも静まってくれることを願っています。
さて、最近の経済ニュースや特集などでコメンテイターがしばしば
「これまでの超円安時代は一先ず終わった」といった類の発言が散見されますが、果たしてその根拠はどこから来ているのか、そこまでのコメントは記憶の限りではありません。
確かに一般的ではないかも知れませんが、根拠となっている可能性が高い一つの証拠がありますので、そのデータなどを使って紐解いてみたいと思います。
為替の世界では昔から「IMMポジション」という有名なデータがあり、このブログでもしばしば取り上げてきた経緯がありますが、ここに円安時代終焉の証拠を垣間見ることができます。
※外為ドットコム社のWebサイト(https://www.gaitame.com/markets/imm.html)よりキャプチャー。
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ご覧のグラフは、そのIMMという金融商品を主に取り扱うシカゴ信用市場における、日本円のポジションをグラフ化したものです。
一般的な資料の見方としては、ネットポジションがロング(買い持ち)なのかショート(売り持ち)なのかを追いかけることで、昔から有名なシカゴの投機筋がどちらの方向に興味を示しているかを把握しようとするものです。
このデータは毎週アメリカ時間火曜日の取引終了時点のもので、通常はその結果が週末の取引終了後にアメリカのCFTCから発表されます。
例えば右端の最新データで言えば、アメリカ時間で8月20日火曜日の取引終了時点のデータが、8月23日金曜日の取引終了後に発表され、日本では翌朝24日土曜日の04:30(冬時間は05:30)頃に相当するという形です。
ネットポジションとはロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の差額を指し、結果がロングであればIMM参加者全体でその通貨を買い越していることになり、目線は当該通貨の上昇である(反対は下落)…と捉える訳です。
この資料の左側の目盛は金額に相当するコントラクト数で、先物市場でよく使われる「枚数」と同じ意味で、0(ゼロ)水準からマイナス側(下)に伸びているヒストグラムのような青い棒グラフがネットポジションを示しています。
ここまでずっとマイナス圏で推移しているネットポジションですが、直近2週間はゼロ目盛より上のプラス圏に棒グラフが伸びていることが判るかと思います。
つまりはこの2週間の円のネットポジションは、マイナスの売り越しからプラスの買い越しへと転じたことになり、目線で言えば円高方向を見始めたというシナリオが成り立つのですね。
データを200週まで広げてみると、
※外為ドットコム社のWebサイト(https://www.gaitame.com/markets/imm.html)よりキャプチャー。
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円が売り越しに転じた起点は2021年3月16日週となっており、実はそれ以来ずっと売り越されていた円が買い越しに転じたことで、長きに及んだ円安(円売り)時代が一旦は終わったと考えられる訳ですね。
このデータで注意すべきことが幾つかあります。
先ず、このデータはあくまでIMM参加者の投機筋の動向に限られていることから、通貨投機の世界的な参加者は恐らくIMM以外の方が圧倒的に多いため、あくまで一つの傾向でしかないと考えた方が無難です。
とはいえ、グラフの赤いラインであるドル円相場の推移は、ネットポジションの推移と高い相関関係にあり、もっと言えばオレンジのグラフである円の売り残高の推移がネットポジションそのものでした。
最新データからは、その売りポジションは、あと65,000枚残っているようですが、どんな相場でも売り残や買い残は一定数存在することを考えると、この先は円の売りポジションの解消による円高はあまり期待できなくなったと言えそうです。
また、多くのIMMウオッチャーはネットポジションにのみフォーカスする傾向がありますが、例えば今後のネットポジションが円の買い越しを伸ばす状況を考えてみると、
・円売りポジションが今少し解消され円買いポジションは横ばい
・円売りポジションは変わらず円買いポジションが増える
・円売りポジションが少し増えても円買いポジションがそれより増える
など複数のパターンがあり、今回の円高急進は
・円売りポジションが解消されると同時に円買いポジションが増える
といった急激なポジションシフトが要因だったことが推測できますが、パターンの中にはネットだけでは追い切れない動きがあるとの認識が必要です。
そのほか、この20年間近くの、金利が低い円買いポジションは、円高局面でも増えにくい傾向があった上に、最新データの88,000枚近い買い残高は既に高い水準でもあることは、把握しておくべき事実です。
さて、改めてIMMポジションを詳しく見ると、確かに円安時代が一旦は終了したと言えそうですが、もう一段の円高を近い将来に想定するのは、少なくともIMMデータからは厳しくなっていることも判りました。
何れにしても、ドル円相場は今回の急落で壊れてしまったのは事実ですから、次なる相場へと展開するエネルギーを蓄えるまでには時間が掛かるものと覚悟し、丁寧にその兆候を探す作業が必要になるかと思います。
浅野 敏郎