社員通信

数字の桁の幻想

本年の去る4月10日21:30発表されたアメリカのCPI結果を受けて、
ドル円相場は遂に152円のボーダーラインが決壊し、
僅か4日間で155円に迫る上昇となりました。

前回の投稿にも書いたように152円が突破された際、
政府が具体的な行動をとる可能性を考えていましたが、
ここまでその形跡は見られていません。

そんな中で相変わらず、
「急激な値動きには断固たる対処を…」と繰り返される政府のけん制発言ですが、
今となっては虚しい遠吠えにしか聞こえません。

市場はもはや介入を試すような催促相場と化している印象もあり、
「あらゆる手段とは何かを見せてみろ!」と言わんばかりです。

本邦株式市場にとって確かに円安はプラスの作用があり、
今回の政府は株式市場を優先する選択をしたのかも知れませんが、

アメリカの金利水準が高止まる可能性が日々強まる中で、

利下げ期待が遠のいたことによるアメリカ株の下落が
本邦株式市場の下落に連鎖するといった皮肉な結果となっています。

市場には155円が新たなボーダーラインだとする噂もあるようですが、
個人的には、ただ限が良い数字だけであって根拠に乏しい気がしています。

介入があるかないかの事前予想は難しいところですが、
チャート的には152円を突破した以上、
2022年の介入以前まで続いていた上昇相場が再開したと言わざるを得ません。

 

※https://www.jprime.jp/articles/-/18195?display=b記事よりキャプチャー

さて前置きが長くなりましたが、

MLB大谷選手の通訳を長年務めてきた彼が違法賭博で拘束されてから
それなりの時間が流れ次第に真相が見えてきました。

WEB版日刊スポーツの記事を、先ずはそのまま一部を抜粋します。

「水原容疑者の驚くべき犯行内容が明らかになった。

大谷がメジャー4年目を終えた21年12月からドジャース移籍後の今年1月までに、
違法の胴元を通じ通算1万9000回、1日平均約25回の賭けを行い

1億4200万ドル(約213億円)の勝ちに対して負けは1億8300万ドル(約275億円)
賭博の借金は、約4100万ドル(約61億5000万円)にも上っていたことが分かった。」
※出処:https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/news/202404120000891.html

負債額の約4100万ドルと言えば、現在の円安水準を遡る34年前辺りでは、
大手銀行の海外支店が運用で失敗し新聞に載る額以上であり、
精神的にも一人の個人でなせる業ではないことなのですが、

個人的に驚いたのは、一連の賭博で動いた額の大きさもさることながら
賭博に勝っていた額も巨額だったことであり、一方的に負けていた訳ではなかったことです。

確かに一方的に負けていればもっと早く愚かさに気づくハズですし、
そこそこ勝っている記憶が中毒性や依存性の要因になるのだと思いますが、

相場投機にも言える幾つかの共通点がございますので少しだけ、数字遊びをしてみます。

 
先ず、総利益と総損失の額が分かっていますので、プロフィットファクターは0.7745です。
1.0が損益分岐ですからギャンブルにしてはまともな数値にも思えますが、
総回数からして大数の法則に達している可能性が高いですから、やり続ける限り損失が膨らむ構図なのは明らかですね。

ただ、合計で19,000回というベットの回数は確かに多いですが、
1日平均では25回ですからFXでスキャルピングをされている方ならあり得る数字です。

スポーツ賭博なので毎回のオッズは異なると思われ、賭した額もまちまちでしょうから一概には言えませんが、
例えば勝負全体で動いた総額の488億円を、総回数で割ると1回あたりの掛金は257万円と、
値がさ株を売買する最小単位程度にまで下がり、非現実的ではなくなってくるのが不思議です。

もう少し、違った角度からも見てみましょう。

勝ち負けの各総額を1回の平均掛金257万円で割ると、
勝ちが8288回、負けが10,700回となって勝率は43.62%と5割を下回ってはいますが、こちらも微妙な数値に見えます。

更にこの勝率を1日平均の25回の取引に落とし込むと11勝14敗で、たった1回の勝敗が違えば12勝13敗となって惨敗感は無く、実はここにも中毒性や依存性の原因がありそうに思います。

 
また、今回の事件は額の大きさから、個人的には縁遠い話だとお考えの方々も多いかと思いますが、
数字の桁を思い切り下げて1回の掛金を257円にしてみると、話は現実的になります。

これで計算すると総利益は213万円、総損失は275万円で実質の損益は62万円の損失となり、回数から見ても期間から見ても、どこにでも普通にあり得るケースに見えてきます。

また、勝率43%という数値も相場においては収益化できない数値でもなく、ここはギャンブルと大きな違いでもあります。

例えば、ロスカットを257円とした場合、今回のケース通りの試算では総損失が275万円です。そこでロスカットより75円多い例えば332円の利益確定を設定すれば、332円×8288回=およそ損失は無くなる計算です。

もしこのケースと同じ勝率と同じ取引回数で100万円の利益を見込むのであれば、総損失に100万円を足した375万円を8288回で稼げばよく、利益確定を453円に置けば達成できることになり、リスクリワードは1.76となって不可能なバランスではないように見えてくるのが不思議です。

 
さて、今回の事件から投資として学べることは、
同じことをしていても桁が2つも違えば異なる世界になるため、都合の良い解釈をしない、ということです。

確かに投資においても幾らかのラッキーは必要に思いますが、あくまでも理論的な戦略の延長線上にあるようなラッキー、例えば先の453円の利益確定も最低線の話ですから、利益幅をもっと伸ばせるチャンスは常に模索することは重要です。

しかし、感情だけのラッキーを忘れられずにただ投資額を増やして利益額の増大を目指すような行為は、自滅への道の第一歩になるのだと肝に銘じるべきです。

また、感情的な取引は自然と取引回数も増え、回数が増えると一回一回のリスクに対しても麻痺しがちですから、思わぬリスクを見逃す可能性もあり注意が必要でしょう。

どうもプロフィットファクターが良くないとお悩みの方は、取引回数や取引額について一度、見直してみることをおススメいたします。

 
 
浅野 敏郎

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