社員通信

黒田 日銀総裁の退任に思う事

2023年4月8日、氏は10年間の任期を終えましたが
先日の4月16日、
「証言ドキュメント 日銀 “異次元緩和”の10年」と題した
NHKスペシャル番組が放映されていました。

皆さんはご覧になりましたか?


※見逃し配信URL(https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/GZ1Y35XPRN/)

 
10年前というと、2013年4月になりますが、
番組は以降の10年を歴史年表のように辿りながら
節目となった出来事にスポットライトを当て

日銀がいつ、どんな判断を下し、
どんな経緯を経てその判断に至ったかなどを
当時の側近へのインタビューを交えて解説していました。

 
古い順番に出来事を辿る構成は、
私にとってはクイズ番組のように感じられ、

「2016年…」という形でナレーションが入る度に、
「マイナス金利政策開始!」などと先回ってつぶやくことで
私の記憶と、この10年間の日本の中央銀行の政策を
再確認、整理することができました。

タイトルがタイトルだけに、日本国全体あるいは黒田氏個人ではなく、
視点はあくまでも日本銀行寄りになっていますが、
良くまとめられていて非常に面白かったので、
機会があれば、アーカイブなどでご覧になっては如何でしょうか。

 
さてこの10年、一貫した日銀のスローガンは
『物価上昇2%の実現』であったことは皆さんもご存じだと思いますが、

ウクライナ問題が発生するまでの間、
結局2%目標は達成されることは無かった訳です。

先にも「視点は日銀寄り」と申し上げたのは、
日銀は物価に対して責任はあるものの、
米FRBのように雇用(ひいては賃金)に責任があるわけではないため、

物価上昇2%を達成するためには、
企業景気が上昇し、その結果賃金が上昇することで消費が活発になり
最終的に物価が上昇するという限られたアプローチしかなかった
ことが良く分かります。

それを象徴するように、
実はこの10年で2014年と2019年の2回も
消費税が引き上げられたにもかかわらず、
当番組ではさらっと流す程度だったのは、
税制は財務省つまり…政府の責務だったからだと思います。

しかし、
日銀が最終目的としていた消費を活発化させて物価を引き上げる
という目論見は
皮肉にも政府による消費税引き上げによって、
その芽を摘み取られてしまったというのが経済的にみると正解であり、

これに関してはファイナンシャルインテリジェンスの専属講師
矢口 新先生が詳しいところでもあります。

 
そして番組では終盤、
消費者マインドが温まり切れなかったことを
間接的に問題視していましたが、

それを招いてしまったのは
政府の消費税引き上げがトドメを指したのは明らかで、
日銀としては政府(財務省)との連携が過ぎて
独立性を維持しきれずになびいてしまった銀行内部の反省点
とも受け止められました。

現在もある部分では政府との連携が維持されており、
この番組の中ではさすがに
あからさまに消費税のせいにはできなかったのでしょうが、

物価2%が先ず定着し、更に上がるような局面になれば
先ずは消費税を引き上げ、それでもだめなら利上げ
という対応をすべきだったという日銀の心の叫びが
この番組から聞こえた気がします。

 
さて今、金融市場では日銀の緩和解除が注目され、
各相場もことあるごとに振らされています。

ただ、これまで利上げを続けてきた各国の中には
消費に陰りが見え始めている側面もあり、

もし先進国の中で利下げが現実のものになり、
その流れが主流になった場合、
黒田 元総裁が堅持してきた緩和継続は副作用になるどころか、
正解となる可能性もあると個人的には考えています。

 
 
浅野敏郎
P.S.
当番組は20日(木)の午前0:35から再放送される予定だそうです。
私は黒田信者でもなく、NHKの回し者でもなく、
逆にここ数年前までは黒田氏に対してはアンチだったかもしれません。

受け入れた国債の償還利回りなどを考えると
緩和維持に対して引くに引けなかった状況をも考慮したうえで、
政府が勝手に行った為替売り介入を受け入れてもなお
先進国に同調しなかった信念は凄い事でした。

彼が神になるのか、はたまたミスター円のごとく売国奴になるのか、
それこそ神のみぞ知る所ですが、少なくとも金融的に考えると、
政府の票稼ぎ的な側面が強かったとしか思えない行動、
それに対して総裁個人ではなく組織として抗えなかった日銀…
という10年間だったというのが私見になります。

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