社員通信

山高ければ谷深し

日本株市場や為替市場のクロス円ペアが大相場を迎えています。

日経平均株価は今年の連休明けに29000円水準を上抜けて以降、
おおよそ1か月(28営業日)後の6月19日時点では、

再び戻り高値を更新し一時は34000円に迫る33960円前後の高値
を付けるなど、この期間に約5000円もの上昇となっています。

また為替の方は、ほぼ同時期のドル円で133円台の中後半水準から
142円水準まで9円近い上昇(ドル高円安)となっています。

ドル以外のメジャー通貨の対ドル相場は逆に、
ドル安気味に推移していることから、
円が独歩安の様相を呈しており、上記の同時期を比較すると、

ユーロ円が146円台後半から155円台前半
ポンド円が168円台前半から181円台後半と
対ポンドでは、14円近い円安相場が展開中といったところです。

円独歩安の材料として、
アメリカの金利先高観には、ぼんやりと天井が見え始めている中、

欧州側の金利先高観が萎えない一方で、
本邦の中央銀行は依然として緩和政策を維持していることで、

円安の期待感が対ドルからユーロや英ポンドにシフトしつつある
といったところでしょうか。

何れにしても、右肩上がりの相場は概ね歓迎される値動きですが、
問題となるのはその速度であることは言うまでもなく、
今回はその理由を少し掘り下げたいと思います。

為替に関しては政府筋も言っているように、
輸出入決済としての通貨が急な乱高下となると
一連のコストも同じように乱高下するため、

企業や産業にとっては幾らを基準に採算を考えれば良いかが
見えにくくなるというのは物価の安定という観点から
良くない事であるのは納得がいきますね。

 
では、株式市場に対してはどうでしょうか。

こちらに関しては一見、問題が無さそうにも思えるのですが、
個人的には、投資家保護の観点から急激な変動はよろしくない点が
多々見えてきます。

例えば、狂乱相場後の悲劇として有名かつ、
日本人投資家のDNAに刻み込まれた出来事といえば、
何と言っても「バブル期とその崩壊」と言えるでしょう。


※日経225index月足チャート

1984年の史上初の10000万円乗せをバブル期開始とするなら、
1989年末の史上最高値の38957円まで約29000円上昇したあと、
1990年10月の安値19781円まで、20000円弱の暴落となりました。

これこそまさに、今回のタイトルが指す、
山頂を目指して足早に29000円登ったあと、
その下山道も急で20000円という深い谷だった…という訳ですね。


※出典:https://pixabay.com/ja/

もちろん、その後も深い谷を更に下っていくことになりますが、
上の期間の上昇相場に要した時間はおよそ5年間に対して、
下げに要した時間は僅か9か月でした。

下げ相場の速度が上げ相場より一般的に早くなるのはご存知の通り、

損失を確定する際に許容以上の損失が発生すると、
決済価格にこだわっているよりも、
とにかく手仕舞いたい気持ちが先行して先を急ぐあまりに急落する…

という話をよく耳にしますが、それはそれで確かでしょう。

 
ではなぜ、形振り構わず損切するほどのパニックに至ったのか?
それは、上昇のし方に問題があったと言えなくもありません。

前述した5年間の上昇相場で、
月足でも認識できる押し目らしい押し目は
1987年後半に発生した21000円水準のみだったように見えます。

つまり、最高値から反落した相場が徐々に深さを増し、
後ろに見えるトンネルの入り口の光が見えなくなった途端、
相場参加者は暗闇の中へ放り込まれた状況となり、

冷静さを失ったまま、どんどん落ちていく中で
前方に見えだした21000円という出口の微かな光に向かって
皆が一斉に走ってしまった…という感じでしょうか。

言い換えると上昇期間において、
しっかりと押し目なり揉み合いなりをこなしていない相場は
いわゆる「節目」が無い状態だということができ、

一旦滑り始めると途中の引っ掛かりがないために、
落ちる所(めぼしい節目)まで落ちてしまう訳です。

 
加えて、このような値動きが相場にとって最悪なのは、

一度発生してしまうと、その市場自体が焼け野原と化してしまうため、
草木が再生してまた実りをむかえられるまでには相当な時間がかかり

その間は何かの収穫を目指せるような相場環境ではなくなってしまう
ことです。

そうならないためには、
参加している投資家が根絶やしにされるような値動きは
回避されなければならず、

それをチャートに例えると、
適度に押し目や揉み合いを入れた上昇相場こそが重要かつ理想です。

日経平均のバブルとその崩壊だけに限らず、
このような良くない値動きは市場を問わずに散見されますので、
そんな市場に参加する際は是非、
非常出口の確認をお願いしたいと思います。

 
さてお仕舞いに、

最安値から脱却した日経平均は、バブル前の状況とは異なり、
何段もの階段を上ってきていますので、
高値を付けたあとの反動も以前のようなパニック状況は
考えにくいところですが、

史上最高値まで6000円を切っている現在、
もし連休以降のペースで節目も作らずに進んだ場合、
あと1~2か月ほどで到達することになってしまい、
現状このペースは、かつてのバブルの急上昇期を上回る勢いです。

ここまでの値動きを見る限り、

このペースで最高値に到達した時の相場状況は恐らく、
30000円以上には押し目らしい押し目が見当たらない…
などという可能性が充分考えられることも、

今から想定すべきなのかも知れません。(2023年6月20日記)

 
 
浅野敏郎

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